胃内視鏡下アニサキス除去
新鮮な魚介類を召し上がった後に起こる激しい痛み、いわゆるアニサキス症は、一刻も早い処置が求められる症状です。
胃内視鏡下アニサキス除去の施術について
胃内視鏡下アニサキス除去とは、一般に「胃カメラ」と呼ばれる内視鏡を使用して、胃の壁に潜り込もうとしているアニサキスの幼虫を物理的に摘出する処置です。アニサキスは、サバやアジ、イカなどの魚介類に寄生している白い糸のような虫で、これが生きたまま人間の胃に入ると、胃壁を噛んだり潜り込もうとしたりします。その際、激しいアレルギー反応が起こり、耐えがたい腹痛を引き起こすのです。
この痛みを取り除くには、現在の医療において胃カメラによる除去が最も迅速で確実性の高い方法と考えられています。処置の具体的な流れとしては、まず内視鏡を口または鼻から挿入し、胃の内部を隅々まで観察します。アニサキスを見つけたら、内視鏡の先端から「生検鉗子」と呼ばれる小さなピンセットのような器具を出し、アニサキスを掴んで慎重に引き抜きます。
アニサキスを胃から取り出した瞬間に、それまで続いていた激痛が劇的に和らぐことが多いのがこの処置の特徴です。
胃カメラの詳細については「苦痛の少ない内視鏡(胃カメラ・大腸カメラ)検査」のページを参照してください。
アニサキス症の原因と症状
アニサキス症を正しく理解し、早期に受診するためには、その原因となる食事や身体の変化を知っておくことが大切です。臨床の現場で私たちがよく遭遇するケースに基づき、いくつかのポイントに分けて詳しく解説します。
原因となる魚介類と摂取の背景
アニサキスは多くの海水魚に寄生しています。特に以下の魚介類を生で食べた場合に発症のリスクが高まります。
- サバ(しめ鯖を含む)・・最も頻度が高い原因魚の一つです。
- アジ・・お刺身やなめろうなどで注意が必要です。
- サンマ・・秋の味覚ですが、生食にはリスクが伴います。
- イカ・・特にスルメイカなどの身に潜んでいることがあります。
- カツオ・・初鰹などの刺身から見つかるケースも珍しくありません。
- サケ・・ルイベなどの調理法以外での生食には注意が必要です。
これらの魚が新鮮なうちは、アニサキスは内臓に留まっていますが、鮮度が落ちてくると身(筋肉)の方へ移動してきます。その身を人間が食べることで、アニサキスが胃に運ばれてしまうのです。
急性胃アニサキス症の主な症状
魚介類を食べてから数時間、長くて十数時間後に以下のような症状が現れるのが一般的です。痛みの強さは人によって異なりますが、「今までに経験したことがないほどの激痛」と表現される方も少なくありません。
- 激しい上腹部痛・・みぞおちのあたりが周期的に強く痛みます。
- 吐き気と嘔吐・・痛みに伴って気分が悪くなり、何度も吐いてしまうことがあります。
- 腹部の膨満感・・お腹が張っているような感覚を覚えることがあります。
- 蕁麻疹・・アレルギー反応の一種として、身体に湿疹が出ることがあります。
これらの症状は、アニサキスが胃壁を刺激すること自体よりも、アニサキスの成分に対して身体が起こす即時型のアレルギー反応が主な原因と考えられています。もし数時間前にお刺身を食べた記憶があり、急激な腹痛に襲われた場合は、胃腸外科を受診してください。
腹痛には他の原因が隠れていることもあります。他の疾患との違いについては「胃・十二指腸の病気(胃潰瘍・胃がんなど)」のページでも触れていますので、ご参照ください。
胃内視鏡検査によるアニサキスの診断と除去
問診によってアニサキス症が疑われる場合、確定診断と治療を兼ねて内視鏡検査を実施します。レントゲンや超音波(エコー)検査では、アニサキスそのものを直接確認することは難しいため、内視鏡による直接観察が基本となります。
内視鏡検査の流れ
検査は、患者さんの不快感をできるだけ取り除いた状態で行います。一般的な手順は以下の通りです。
- 消泡剤の服用・・胃の中の泡を消して観察しやすくする薬を飲みます。
- 局所麻酔・鎮静剤の投与・・喉の麻酔に加え、希望される方にはリラックスした状態で検査を受けられるよう鎮静剤を使用します。
- 内視鏡の挿入・・食道から胃へと慎重にスコープを進めます。
- 胃内の観察・・胃液の溜まり場やヒダの裏側まで、アニサキスがいないか丁寧に確認します。
- 虫体の摘出・・アニサキスを発見したら、鉗子を使って取り除きます。
アニサキスは胃の中に1匹だけとは限りません。複数匹が寄生している可能性も念頭に置き、胃全体をくまなくチェックすることが重要です。全ての虫体を取り除いたことを確認して、処置は終了となります。
除去後の経過と注意点
アニサキスを取り除いた後は、多くの場合、劇的に痛みが改善します。ただし、胃壁に傷がついたり、炎症が残っていたりする場合、数日間はシクシクとした重だるい痛みが続くことがあります。その際は、胃粘膜を保護する薬や抗アレルギー薬を処方し、経過を観察します。
また、ごく稀にアニサキスが胃を通り抜けて腸まで達してしまう「腸アニサキス症」という状態になることもあります。この場合は内視鏡で届かない場所であるため、点滴などの保存的な治療(対症療法)を行い、自然に症状が収まるのを待つことになります。そのため、早期に胃の段階で発見し除去することが、症状を長引かせないための鍵となります。
アニサキス症を防ぐための日常生活の工夫
美味しいお刺身を安心して楽しむためには、予防の知識を持つことが非常に大切です。アニサキスは非常に生命力が強いですが、特定の条件には弱いという性質を持っています。日頃から以下の点に気をつけてみてください。
加熱調理を行う
アニサキスは熱に弱く、中心部までしっかりと火を通すことで完全に死滅します。60度であれば1分以上、70度以上であれば瞬時に死滅するとされています。焼き魚や煮魚にすれば、リスクを気にする必要はありません。
冷凍処理を活用する
生で食べたい場合には、冷凍が有効です。マイナス20度で24時間以上冷凍することで、アニサキスは死滅します。ご家庭の冷凍庫では温度が十分に下がらないこともあるため、一度凍らせた「解凍品」と表示されているものを選ぶのも一つの方法です。
目視で確認し、細かく切る
アニサキスは体長2センチメートルから3センチメートル程度の白い糸状の虫なので、注意深く見れば発見できることがあります。また、隠し包丁を入れたり、細かく切ったりすることで、万が一虫がいても傷をつけて弱らせることができます。「よく噛んで食べる」ことも推奨されますが、アニサキスは非常に丈夫なため、噛むだけで完全に死滅させるのは難しいと考えた方が良いでしょう。
なお、お酢やワサビ、醤油、あるいは正露丸といった市販薬には、アニサキスを死滅させる効果はないとされています。「お酢で締めているから大丈夫」と過信せず、適切な温度処理を重視してください。

